2013年から2014年3月にかけて、ファラデーの単極誘導モーターに関する一連の実験(文献1)を行った上で詳しく解説(文献2)した。 一連の実験により、単極誘導モーターに生じる力の定性的な性質の概要は理解できた。 判明した性質の内の一つに、電極が接触する「接触型単極誘導モーターに生じる力は接点に生じる」ということがわかった。 (以下、接触型という。) 本論では、接触型の接点(電極Aと電極B)で何が起きているのかをより詳しく知るために、高電圧放電を用いた単極誘導モーターの実験・観察を行った。(以下、電極Aと電極Bが離れた単極誘導モーターを「非接触型」と呼ぶ。) 2 実験機材と実験の方法ならびに観察と計測
写真1
図1 平滑用のコンデンサーは、セラミックコンデンサー(耐圧3KV 470pF)を7直列×7並列した物を用いた。 写真2単極誘導モーターは、文献1の実験1において用いた単極誘導モーター(写真2)と同一である。 リング状ネオジム磁石(外形39ミリ、内径19ミリ、厚さ7ミリ、高さ方向に磁化、表面磁束密度475mT)2枚で厚さ0.5ミリ直径50ミリの銅円板をはさんだものである。銅円板(電極Aとし、裏面をA’とする) の中心をミニチュアベアリングで支えて自由に回転する。上面をS極、下面をN極とする。
球ギャップは直径30oの真鍮球を使った。最大放電距離は6.4ミリであったことから電圧は、およそ20KV(文献3)であった。 直流高電圧の測定では、激しい音と光を伴う火花放電が見られた。(写真3) (文献3) 静電気の話,球ギャップの近似的なデータp240,A・D・ムーア著,(株)河出書房新社,1972年 実験(2) 続いて、半波整流した電源電圧を測定した。(図3) 図3写真4 電圧は、文献3によりおよそ20KVと判明した。 放電の様子は穏やかで、コロナ放電(文献4)に分類されると思われる。 ネオントランスの定格出力電圧は15KVであり、最大値は√2倍であるから、測定で得られた値はおおむね正しい。
図4 電極Aは回転しなかった。電極Bも力を受けている様子はなかった。 放電は、写真5のとおり激しい音と光を発するが、非接触型単極誘導モーターに生じる力による放電の曲がりは見られなかった。 なお、電極A(−)および電極B(+)の下に角度目盛りを設けた。角度目盛りは、非接触型単極誘導モーターの回転中心から見た放電の角度を真上に設置したカメラから読み取った。撮影は、デジタルカメラ(カシオEX-ZR300)で動画を撮影し、動画の中からスナップ写真(写真5)を得た。 写真5実験(4) 半波整流した高電圧放電により非接触型単極誘導モーターに生じる力を観察、測定した。回路は図3による。実験(3)と同じく、電極A(−)は回転しなかった。電極B(+)も力を受けている様子はなかった。 写真6スローモーション(240fps)撮影した動画を再生し、放電の振れ(以下、巻き込み角度という。放電に生じる単極誘導モーターの力は、放電の巻き込み角度に比例する。)がどのように変化するかを観察し、結果を図5に示した。 写真6は、動画内のスナップ写真である。 図5のように放電(C)は、反時計方向に曲げられるとともに、放電の経路が巻き込む傾向があった。 電極Aおよび電極Bの最短距離の位置1から放電を開始し、2・3から5の位置へ曲げられることで巻き込むような力が生じた。放電は、最大の巻き込み状態5に至った後、最初の放電位置である1に戻る。以後2・3を経て5への放電を繰り返した。 スローモーション撮影による動画の中で、最大の巻き込み角度を読み取ったところ40度であった。 図5 ちなみに放電(C)を真横(写真7)から見ると、多少は上下方向に曲がることもあるけれど、概ね電極Aと電極Bの間を直線的に放電した。放電は磁極方向へ振られる傾向は見られなかった。以後の実験も同じであった。
しかしながら、電極Aの質量と回転軸受けの抵抗は、放電中の電子の質量と比較すると大きい。銅円板(電極A)が反トルクにより時計方向に回転しなくても、放電による反トルクを銅円板(電極A)が受けていないことの証明にはならない。 常識的には電極Aが反トルクを受けていることだろうが、実際にどの部分が反トルクを受けているのかは別途確認する必要がある。 また、電極Bも振れることはなく力を受けている様子はなかった。 実験(5) 半波整流した高電圧放電により生じる力を観察、測定した。 電極Aおよび電極Bに印加する電圧の極性を実験(4)と反対にした。電極A(+)、電極B(−)に設定。回路は図3による。 写真8放電の様子は、写真8の様であり、時計方向に巻き込む様子を観察した。ただし、電極Bが2〜3秒で赤熱し溶け出した為に、巻き込みの角度が正確にわかりにくかった。 印加した電圧の極性は実験(4)と逆であるから電極Bの先端から電子の放出が集中する訳で、結果、電極Bの先端が加熱し溶け出したものと考えられる。 図6動画を再生して写真9を得た。最大の巻き込み角度を読み取ったところ、35度であった。なお、放電が1・2・3から5へ至り1へと戻る繰り返しは、ネオントランスの電源周波数と同期しているのではないかと感じたが、よりハイスピードで撮影した映像で同期しているかどうか確認が必要である。 写真9写真6と写真9を比較して、巻き込み角度は偶々写真6の方が大きいけれど、繰り返し実験(4)と実験(5)を観察したところ、巻き込みの最大角度は実験(4)より実験(5)の方が大きいことが観察された。 つまり、放電による非接触型単極誘導モーターに生じる力は、実験(3)の観察から直流ではゼロかほとんど生じない。また、実験(4)と実験(5)の観察より半波整流した高電圧放電では、時計方向に生じる力が反時計方向に生じる力より強いことがわかった。しかしながら、実験(4)と実験(5)において、電極の形状がAとBでは異なること、実験(5)においては、電極Bが熱で溶けることによって観察結果に影響を与えていると考えられる。そこで、以下の実験を行った。 実験(6) 電極A(−) 電極B(+) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(7) 電極A(+) 電極B(−) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(8) 電極A(−) 電極B’(+) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(9) 電極A(+) 電極B’(−) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(10) 電極A’(−) 電極B(+) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(11) 電極A’(+) 電極B(−) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 実験(12) 電極A’(−) 電極B’(+) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 写真16 実験(13) 電極A’(+) 電極B’(−) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 3 実験の結果
同じ半波整流した電源を用いて、電極の形状による差異をなくした上で、かつ電極の仕上げによる誤差を相殺する工夫をして得た結果として、単極誘導モーターの放電に生じる力は、S極を上面とした場合、時計方向(CW)に働く力は反時計方向(CCW)に働く力より強いと判定した。 表1の結果を図7上段に示す。 図7表1の結果 巻き込みの偏りは異なる二つの種類の力の合成の結果かもしれないと考えた。 これまでの実験の経験(文献1)から電源より電極Aへは、回転軸に接続しなくてもよいことがわかっていた。しかし、磁石の磁極方向については、注意を払ってこなかった。 電源からの接続が磁極に関係する(電源をN極側からとS極側から供給するのでは結果が異なる)として、かつ、放電の巻き込み角度(力:回転トルク)の非対称性の原因が異種類の力が合成されることによって生じていると仮定するならば、N極を上面とした実験を行えば、図7下段のように放電は(時計方向に大きく巻き込み)(反時計方向に小さく巻き込む)ことがあり得ると考えた。 そこで、追加の実験(14)と実験(15)を9/13に行った。 電極Aと電極Bは、いずれも“表面”を用い、ネオジム磁石はN極を上面とした。電極の表裏を試さずとも観察で有意判定できる。
放電の巻き込み最大角度−50度 写真18実験(15) 電極A(+) 電極B(−) 半波整流 電圧20KV 回路は図3による。 放電の巻き込み最大角度76度 写真19実験の結果は、図7の上段(実験6〜実験13)の結果を、裏面から見た状態の放電になった。 つまり電源から電極への接続は、N極・S極どちらからでも同じ結果であった。 非対称性は、電源から磁極への接続方向に依存しない。 非対称性は、同種類の二つの力の合成であって、二つの力を分離して単独で取り出せないのではないかと考えた。
4 考 察 (1) 一般に、ファラデーの単極誘導の現象は、次のように説明されている。 図8端面を磁極とする円柱状磁石に対して、同軸上に導体円板を配して軸回りに回転させると、中心軸と円板の外縁部に誘導起電力が生じる。 このとき、
1.磁石を固定して円板を回転すると誘導電流が流れる。 という現象である。 3番の項目が不思議な現象とされている。 この現象は、イングランド人のマイケル・ファラデーが1821年に単極誘導モーターを考案し、1832年に単極誘導発電機を製作したことで、発見した現象をいう。ファラデーの単極誘導による起電力は式1によるとされる。 左辺は起電力V、右辺の第2項が単極誘導にかかる部分である。 vは回転体の速度、Bは磁束密度、Lは回転する導体円板の長さ(半径)であって、起電力Vは磁束密度B、速度v、長さLに比例する。 一方、筆者の行った文献1、文献2による接触型単極誘導モーターの実験の結果、ファラデーの単極誘導モーターに生じる力は
1.磁力線あるいは磁束密度とは関係がない。(相関がない) ということがわかった。 (2) 文献1と文献2で得た7点の結果は、それぞれについて疑問がありさらに確かめるべきことも多いが、本論では2.の詳細を検討する為に放電を用いた電極Aと電極Bが非接触な単極誘導モーターの実験と観察を行った。 結果は次の通りであった。 放電を用いた非接触型の単極誘導モーターに生じる力は @.直流では力が生じないか、ほとんどゼロである。 (文献5)単極誘導モーター(2つのモーターを比較する),2014年6月 食酢を使った単極誘導モーターに生じる力は、電解質溶液の原子間を伝搬しているようにも見える。 @ 絶縁破壊による電子の運動が強いために、巻き込みによる力(単極誘導モーターに生じる力)が打ち消されて、観察に かからなかったのか。それとも直流では力が生じなかったのかははっきりしなかった。微弱だけど有るのか、本当にゼロなのかを確認する実験は困難だろう。 A なぜ、時間的に変化する脈流では力が生じるのだろうか。仮に@に力が生じてなかったとするならば、@との兼ね合いがあるのだろうか。 文献1の実験4で観察された、「7.火花放電の起きないときに強い力が生じる」と関連するのではないか。関連があるなら、別途確認する必要がある。 B とC は、式1により解釈できるのかわからない。放電中の電子が磁石の磁力線との作用で一定方向に力を受けるのだろうか。実験を行った位置は、磁極と磁極の間であって、磁力線は通っているだろうが、磁束密度はゼロ付近である。 D 放電中の電子が力を受ける際に、反作用をどこが受けているかを調べないと断言できない。つまり、電極Aに”接する”電子ならば電極Aが反作用を受けているはずだが、空間を進む電子は力を受けるとき何が反作用を受けているのか理解できない。 単極誘導発電機の起電力は回転する導体円板にあるとする資料(文献6)もある一方で、閉回路の一部にもあると議論する資料(文献7)もあった。 筆者は、単極誘導モーターの力は接点に生じると結論した。今回の実験でも放電が巻き込む現象から、接点(電極Aと電極B)間を移動する電子や文献5に示すイオンに力が働くと考えた。この考え方を単極誘導発電機に適用するならば、起電力は接点に生じているのかも知れない。しかしながら、電極Aから離れた位置にある電子あるいはイオンにどのように力が及ぶのか理解できていない。 (文献6)磁力線の運動に対する疑問,今井功,続間違いだらけの物理概念:パリティ編集委員会編:丸善株式会社
2014/10/10 動画追加 |